リネンとコットンの話
LINEN & COTTON
台所の壁に掛けられた一枚のキッチンクロス。
その存在に対して私たちは普段あまり意識していないけれども、暮らしの中でふとした瞬間に手を伸ばすと、そこに安心があるのに気づきます。
グラスの雫を拭きとるとき。
焼き立てのパンが包まれるとき。
熱い鍋をそっと持ち上げるとき。
生地は言葉を持ちませんが、ただ静かに寄り添って日常を支えてくれる。そんな時間が、いつしか暮らしそのものを豊かにしていくことに気づきました。
リネン(麻)が暮らしに重ねる記憶と力
祖母の家で見かけたリネンクロスは色あせていて、繰り返し使われ、角は丸くなり、生地はやわらかく手に馴染んでいました。色あせていたけれど決して汚れた布ではなく、しっかりしていて清潔感があったのを覚えています。母が使っていたクロスもそうでした。
キッチンクロスに触れる時に、あの時代の空気や家族の声がふとよみがえってきて、今同じように使っている自分に微笑みました。
リネンは、ただ水滴を拭うための布ではなく、使うたびにやわらかさを増して風合いの変化に使い手の日常が重なっていきます。
そして、しっかりと水分を吸い取りながら乾くの吸水性と速乾性で、繊維が湿気をため込まず、次に手にするときにはさらりと気持ちよい状態で待っていてくれます。
また、リネン素材ならではの抗菌性が、台所仕事に安心を添えてくれます。使い込んでも嫌なにおいが残りにくく清潔さを保ち、さらにリネンはシミに強い素材でもあり、染み込んだ汚れを吐き出す力はお皿洗い洗剤でつまみ洗いをすることで元に戻すことを実現出来ます。
リネンは綿よりも強く耐久性に優れていて、繰り返しお洗濯をしても年月とともにしなやかになっていく。新品の頃の張りが少しずつほぐれて、使い心地の良いアイテムに変化していきます。
リネンと共に暮らすということ
キッチンクロスは単なる道具としてではなく、テーブルに一枚広げれば食卓の雰囲気をやさしく変える演出役にもなります。朝食のテーブルに無造作に置かれたパンや果物の器も、クロスの上に並べると途端に違った景色になり器や料理の彩りが引き立ちます。
お料理をのせる器を選び、器を載せるクロスを選ぶ。そうしたほんの小さな工夫が、いつもの朝食を特別なひとときに変えてくれたりします。花瓶の下にクロスを敷いたり、クロスで器を引き立てる行為は、丁寧に暮らすためのひとつの方法でもあるのです。
また「パンを包む」という使い方には歴史があり、フランスでは古くから焼き立てのバゲットやブールをリネンで包む習慣がありました。リネンは余分な湿気を吸い取りながらも適度に保ち、パンを美味しい状態に保つ理想的な素材だったのです。
また発酵の段階でも、生地を休ませるための布(クーシュ/couche)としてリネンが使われてきました。パン屋の仕事場で息づいてきたリネンは、日常と食文化を支える欠かせない存在でしたが、パンがリネンに包まれている様子は何ともお洒落な光景ですね。
私たちが台所で使っているリネンクロスは、お皿を拭くための実用的な使い方から料理や器の表情までを引き立てるといった多くの役割を持っています。同時に、大地に育まれた強さとやさしさを併せ持った天然の繊維が、私たちの日々の暮らしにプラスの効果を与えてくる特別な存在です。
毎日手に触れるものだから、安心できる素材を選びたい。派手さはなくとも確かに暮らしを支え、心に安心を与えてくれます。リネンクロスの魅力はその優しい質感や機能性だけでなく、暮らしに寄り添い楽しませてくれる力があります。沢山の恩恵があるからこそ、今も変わらず私たちの生活に選ばれ続けているのです。